
オリジナル・アルバムとしての前作“Debut”
「土岐流シティ・ポップ2007」は、これまでのジャズ寄りのポップス路線に、1970年代ニューミュージックや昭和ジャズのテイストが加味されたサウンドだ。恐らく土岐麻子が子供の頃に聞き親しんで今や同化しているサウンドが基調となっているのだろう。だからこそ、上質なのに気軽に聞けるサウンドに仕上がったのだと思う。
と言っても、実際にこうしたサウンドを作り上げているのは、土岐麻子と同世代のクリエーター達だ。冒頭の2曲はNONA REEVESのメンバーが関わっているが、NONA REEVESは大学時代に隣のサークルで活動していた連中だそうだ。3曲めの「ファンタジア」を手掛けている川口大輔に至っては小学校の同級生だそうだ。同年代ならではの共通した時代感覚が根底にあるからこそ、安心してこれまで披露したことのなかったボーカル・スタイルにも挑戦してみたのだろう。
大半の曲をそうしたクリエーター達と共作(作詞担当)しているが、「青空のかけら」は斉藤由貴1986年のヒット曲だ。何となく毛色が違うなと思って、作詞の松本隆で調べて分った。土岐麻子のほんわかと包み込むような歌声は、こういったアイドル歌謡曲までもレパートリーに取り込んでしまう。心地好い歌声に酔い痴れていると見落としがちだが、ジャズもロックも洋楽も歌謡曲も同じで次元でサラリと歌いこなしてしまうのは凄い才能だと思う。相前後して出た原田知世の新作にも共通する印象だ。
それにしても、ラストの「カモンナ・マイ・ハウス」は、チョットやり過ぎたように思う。本作の特徴のひとつである昭和ジャズ・テイストとは正にこの曲を指している。オリジナルは1950年代にヒットしたRosemary Clooneyの代表曲だが、日本では故・江利チエミのカバーが有名だ。土岐麻子も江利チエミの歌唱に魅了されたそうで、本作に収録するに当って曲名をカタカナ表記にしたようだ。
Cymbals時代の無感情で一本調子な歌い方が好きだった者にとっては、今頃になって様々なボーカル・スタイルの引出しを一斉に開けられると戸惑ってしまうことだろう。今までずっと騙されていたような気分になって、どうも素直に賞賛できない。逆に本作で初めて土岐麻子の歌声に触れた方々には、以前の活動が多義に亘っている割には歌い方自体は単調に思えることだろう。
いずれにせよ、土岐麻子は本作で歌手としてアーティストとして大きく成長したことは明らかだ。今月下旬、そんな姿を実際に拝見する機会を得た。Cymbals以来6年振りでコンサートに行くことにした。問題は開演に間に合うように早退できるかどうかだ。入場整理番号がいくら良くても、早めに会場に着かなければ意味がないというのに....それ以前の問題だ(ー_ー)!!
★Best Track=「ファンタジア」
1人で何役もこなしているPVもほのぼのとしてイイ感じ。
参考サイト:
bounce.com インタビュー・ファイル=土岐麻子
CDジャーナル インタビュー=多面性を発揮した新作を語る
音楽ウェブロッジSunHero=Cymbals-Anthologyのレビュー


